現代英語の文法を探求する

英語学とその隣接領域に関する見解を個人の立場で記述しています。

グラフから見える新型コロナウイルス第三波の拡大状況(6)

1. はじめに

 落ち着いて生活と仕事ができることを願っているのですが,世の中の方向が大丈夫なのかと不安が募ります。不安は容易に人の心を支配します。確かに,最悪の事態を想定することは重要です。しかし,それがどの程度現実的なのか裏付けや吟味もない状況で,社会的に影響力のある人々に,新型コロナウイルスの動向について,不安を煽るかのような言動が多くみられることを危惧しています。

 言動の背後に,責任転嫁や保身の意図が隠れていないか,私たちは注意深く見守る必要があるかもしれません。

 

2. ピークアウトしたのか?

  国内の発生状況(Yahoo! JAPAN提供)を参照すると,続落傾向が安定して続いている(特に,伸びが大きい土曜日の新規感染者数が減少し,「増加パターン」に変容が見られる)ので,1月8日(新規感染者7,787人)を境に,ようやく自然減の方向に向かっている可能性が考えられます。

 二度目の緊急事態宣言が効力を発揮する1月8日を起点に考えると,1月22日(新規感染者数5,045人)に二週間目を迎えました。

 現状の分析と将来予測(できれば,年当初に新規感染者数が突発的に急拡大したメカニズムについての科学的説明)が分科会から発表されなかったことに,落胆する国民は多かったのではないでしょうか?

   (1)は第二波の上に第一波を重ねたものです(第一波は,縦と横をそれぞれ2倍に引き伸ばしている)。

 

(1)

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 二つの波が重なっているところでは色が濃く出ていますが,第一波と第二波のピークアウト後の減少傾向についてどう思われるでしょうか? グラフは,ピークを過ぎた後では,社会的・経済的活動を特に抑制しなくても,新規感染者数が自然に減少することを示しています。

 分科会からピークアウトの宣言がいつ出るのか待たれるところです。

 

3. すでに第四波が始まっているのか?

 今度は,第三波に第二波を重ねた(2)を見てみてください(第二波の縦と横をそれぞれ,1.5倍に引き伸ばした後で,ピーク時の新規感染者数の値が3,200に近くなるように,高さを2倍に調整している)。

 

(2)

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 ここでは,12月23日頃を境に新しい波(ここで言う第四波)が現れていると考えられます。この波は,遺伝子の変異に起因する新しい波である可能性が考えられます。感染研の解析ではどうなっているのか情報が待たれるところです。

 

4. 今後の発生を楽観的に予測すれば?

 昨年末の数値の動向には,今年当初の「跳ね上がり」を示す兆しが見当たらないので,「未来の下りカーブ」を予測するのではなく,逆に,存在していたかもしれない「過去の上りカーブ」を想像しながら,今後の発生を楽観的に予測してみたいと思います。

 

(3)

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 赤の急な山は,1月初旬の数値を「一つの波」の一部であると解釈したものです。青の緩やかな山は,「二つの波」が合成されたものの一部であると解釈したものです。(2)を見ると,先行してピークが3,200の山が現れていることを踏まえ,その山の一部に6,400 (=800×23)の山が被さったものと仮定し,グラフ上では痕跡が見えないのですが,後者の山を想像で補って描いたものです。頂点は赤の山に合わせています((2)では,弧の開き具合を決めるために,頂点は1月8日に仮置きしてある。ピーク時をやや遅らせて仮定したless optimisticな弧が赤で描いた山である)。

 

5. 医療体制の脆弱さ

 先週の木・金・土の3日間の超過率を見てみましょう。これは,人口比率と比べて発生比率がどれだけ大きいかを指標にしたものです。

 

(4) 超過率

                    (80≦早期警戒水域<120    120≦警戒水域<200     200≦危険水域)    

      1月21日 (5,652)

      1月22日 (5,043)

      1月23日 (4,717)

  1

  241

東京 (10.8)

  1

  216

東京  (10.8)

  1

  210

東京  (10.8)

  2

  179

神奈川 (7.2)

  2

  186

千葉  (4.9)

  2

  178

千葉  (4.9)

  3

  173

千葉  (4.9)

  3

  182

沖縄

  3

  159

大阪  (7.0)

  4

  133

埼玉  (5.8)

  4

  172

神奈川 (7.2)

  4 

  155

沖縄

  5

  127

大阪  (7.0)

  5

  130

兵庫

  5

  153

神奈川 (7.2)

  6

  125

福岡  (4.0)

  6

  127

大阪  (7.0)

  6

  124

京都

  7

  119

京都

  7

  124

京都

  7

  122

茨城

  8

  109

沖縄

  8

  122

埼玉  (5.8)

  8

  119

埼玉  (5.8)

  9

   98

兵庫

  9

  115

福岡  (4.0)

  9

  113

福岡  (4.0)

10

   81

愛知

10

    83

愛知

10

  112

兵庫

11

   80

群馬

11

 

 

11

  100

山口

12

 

 

12

 

 

12

    88

愛知

 

 相変わらず東京だけが別格で,2倍以上の発生状況が続いています。

   第三波を東京との「共振関係」で見ると,東京圏では千葉,関西圏では京都,その他の全国的な視点では,福岡,沖縄が,北海道,愛知より時間的に遅れて拡大することにも気がつきます。

 大阪は兵庫・京都と一緒に宣言の要請を行っているので,二府一県を一つの「行政単位」として考えてみた場合にどうなるのかも見ておきましょう(都道府県名の後の数値は人口比率,超過指数の下の数値は発生比率を表す)。

 

(5) 超過指数(2) 

 

1/21

1/22

1/23

 

1/21

1/22

1/23

東京   (28.7)

神奈川

埼玉    

千葉    

 192

(55.2)

 186

(52.0)

 172

(49.3)

大阪 (13.4)

兵庫  

京都   

 

 116

(15.5)

 

 

 

 128

(17.1)

 

 

 138

 (18.5)

 

神奈川  (17.9)

埼玉    

千葉

 

163

(29.1)

 

160

(28.7)

149

(26.7)

 

  宣言を要請する基準を超過指数に基づくと仮定した場合,どの程度が妥当でしょうか?

  進化の仮説の一つに赤の女王仮説というものがあります。この仮説の基になった赤の女王のセリフが(6)です。

 

(6) (In Lewis Carroll’s Through the Looking Glass, the Red Queen tells Alice,)

     “It takes all the running you can do, to keep in the same place.”

  

 このアイデアを拝借して,新型コロナウイルスと戦う自治体に応用してみたらどうなるでしょうか?

 第一波,第二波,第三波,そして,ここで言う第四波と,ステージが上がるたびに,走る速さ(=感染力)は増していきます。第三波まではなんとかステージに合わせて早く走り続ける(=医療体制を維持する)ことができたが,第四波ともなると,体力の格差(=医療体制の強靭・脆弱さの差)が現れて,スピードについていけない自治体が出てきた,という「見立て」で,現在の状況を見るとどうなるでしょうか?

 超過指数が200を超えるか,あるいは,少なくとも,150以上で推移するような場合には,宣言の要請があるかもしれないとは思っていただけに,大阪の早期の「陥落」は予想外でしたが,超過指数80以下の自治体ではどうでしょうか?

   (7)は超過指数80以下のクラスで上位に入る道県をピックアップしたものです(すべての都道府県について指数を算出していないので,漏れている県があるかもしれません)。

 

(7) 超過指数(番外編)

 1

  63

岐阜

 1

  73

群馬

 1

  69

北海道

 2

  60

栃木

 1

  73

栃木

 2

  57

熊本

 3

  55

北海道

 3

  56

岐阜

 3

  56

岐阜

 4

  50

熊本

 4

  52

北海道

 4 

  53

群馬

 5

  38

静岡

 5

  41

静岡

 4

  53

栃木

 6

  23

広島

 5

  41

広島

 6

  38

静岡

 

 

 

 7

  36

熊本

 7

  23

広島

 

 岐阜と栃木が宣言を要請し,現在,宣言下にあります。しかし,超過指数を基準に見ると,どうやら,ここで言う第四波により,医療体制の脆弱な自治体が浮かび上がってきたようです。宣言の発令は,さらに影響が多方面に波及し,二次試験に当たる個別入試を取りやめる大学まで現れました。

 しかし,自治体だけを責めるわけにはいかないでしょう。そもそも,通常医療から独立したコロナ専門病棟とその運営スタッフを確保することは,本来,分科会,医師会,感染症学会(そして,学術会議)が政府に提言すべきことでした。少なくとも,第二波が沈静化した時期には,感染力のさらに強い第三波(以降)に備えて,人の命(と畢竟,経済の命)を守るために,非常時を想定した医療強化策を講じておくべきで,それがなされていたら,宣言は,発令されたとしても,東京に限定するような局地的な段階にとどまり(個別入試も予定通りに実施できた)のではないでしょうか?

 「第四波」は,医療のひっ迫というのが,実は,人災ではないかという視点で検証することが必要であることを私たちに教えてくれているのではないかと思います。